2020年度東アジア社会科教育シンポジウムの報告

全国社会科教育学会は、2021年2月27日(土)に「2020年度東アジア社会科教育シンポジウム」を共催しました。金鍾成氏が代表者を務める科学研究費助成事業(若手研究_19K14238)「他国の語りに開かれた教育観を育成する社会科教員養成のデザインベースド・リサーチ」が主催した「2020年度東アジア社会科教育シンポジウム」は、広島大学教育ヴィジョン研究センター (EVRI)、International Social Studies Association (ISSA)、韓国社会教科教育学会とともに共催されました。第1部では「アジアの第二次世界大戦を教える―歴史教育と歴史和解―」というテーマについて、第2部では「他者の語りに開かれた社会科教員養成のデザインリサーチ―国の言説を乗り越える相互理解を目指して―」というテーマについて、あわせて100人近くの世界の研究者が議論を行いました。

英語で行われた第1部は、第二次世界大戦の「何を」「どのように」記憶するか、またそれは「なぜか」という問いが現在の東アジアの緊張関係に結びついていると指摘した金鍾成氏の趣旨説明から始まりました。第二次世界大戦を取り巻く記憶の競争のなかで「歴史教育は何ができるか」を考えるために、日本、韓国、台湾の専門家と話し合う時間を設けたと説明され、討論のファシリテーターと討論者が紹介されました。

Terrie Epstein氏のファシリテーションのもとで、日本の事例を川口広美氏が、韓国の事例を金鍾成氏が、台湾の事例をYu-Han Hung氏が紹介してくださいました。各討論者は、以下の三つの問いに対する各国の状況を話し、各国の状況を比較・検討しました。

  • ・あなたの国の第二次世界大戦に対する主なナラティブは何か。それは、今日の東アジアの緊張関係とどのようにつながっているか。
  • ・あなたの国では、第二次世界大戦がどのように教えられているか。
  • ・歴史和解のために第二次世界大戦を教える場合、直面しうる問題とは何か。それをどのように乗り越えることができるか。

討論が進むにつれて、第二次世界大戦の記憶と各国のアイデンティティの問題、歴史教育における感情の捉え方、学校歴史と学校の外の歴史との関係、歴史と政治の関係など論点が浮き彫りになりました。複数の参加者からも各国の歴史教育の現状や歴史和解のための新たな取り組みに関する質問や学校歴史の役割の捉え直しの必要性など、討論者の議論を深める質問をいただきました。

日本語と韓国語で行われた第2部は、第1部で議論した歴史和解のための歴史教育を言及し、第2部ではそのような教員をどのように育成することを議論すると説明した川口広美氏の趣旨説明から始まりました。その後、話題提供者の金鍾成氏、日本側の指定討論者の藤原孝章氏、韓国側の指定討論者の李貞姫氏、通訳の車・ボウン氏が紹介されました。

金鍾成氏は、ご自身で日本と韓国を行き来しながら授業実践を行った日韓の社会科教員志望学生による「より良いヒロシマ教科書」プロジェクトとそのなかでも参加者の学びを発表しました。韓国の参加者は、ヒロシマに原爆が投下されるまでの経緯を重視する「歴史教科書」を作り、一方日本の参加者はヒロシマに落とされた原爆の悲劇とそこからのヒロシマの平和への活動を重視する「地域教科書」を作りました。互いに「より良いヒロシマ教科書」を提案し合うなかで、合意と非合意を繰り返しながらも、両国の参加者は、自身の既存の考えに対するメタ認知、相互理解をともに追求する他者の存在の実感、構築主義に基づく歴史教育の可能性と必要性の発見という学びを得たと報告しました。

藤原孝章氏と李貞姫氏は、金鍾成氏の実践を「国民」と「市民」の関係を捉え直す社会科教育および国際理解教育の新たな試みとして評価しました。一方、先行研究との相違点を明確にする必要性、「より良いヒロシマ教科書」に対する前提を揃える必要性、参加者の感情的な反応に対する取扱いの問題、安全な公共圏づくりの方略といった多様な観点からもコメントしていただきました。なお、両国の参加者からも、日本と韓国といった国家単位でプロジェクトを行うことの長所と短所を考える必要性などのコメントをいただきました。

「2020年度東アジア社会科教育シンポジウム」の開催に向けてご尽力いただいた方々に改めてお礼申し上げます。今後も本シンポジウムのような国家を超えて記憶とその教育に関して語り合える公共圏を創造し、「継続的で漸進的なプロジェクト」としての歴史和解を追求してまいります。