第9回全国社会科教育学会・韓国社会教科教育学会研究交流を開催しました。

2021年8月28日(土)に第9回(日本)全国社会科教育学会・韓国社会教科教育学会研究交流を開催しました。午後1時から始まった会は、午後5時近くまで続きました。2020年に開催される予定であった第9回の研究交流でしたが、コロナの影響により1年延期され、なおかつZoomを活用したオンラインで開催されました。今回の研究交流には50人前後の会員が参加し、日本と韓国の社会科教育が直面している課題を克服するための方略について議論しました。

第9回研究交流のテーマは「日韓関係の現状と社会科教育の役割」でした。高まる日韓の緊張関係のなかで、社会科教育はどのような役割を果たす必要があるか、すなわち社会科はどのような市民を育成する必要があるかについて議論を行った今回の研究交流では、各学会から1名ずつの発表者と指定討論者が話題を提供しました。日本の全国社会科教育学会からは、岡山理科大学の紙田路子氏が「価値調整能力の育成を目指した防災教育の授業設計―小学校6学年小単元「水害から考える地域の防災」の設計を通して―」を発表しました。紙田氏は、協同化社会を志向し,価値観を異にする人々の間で新たな判断基準を常に更新,構築していく能力としての価値調整学習を提案することで、日韓の子どもが価値対立を乗り越える能力を身にづけることができると主張しました。韓国社会教科教育学会からは、延世大学教育研究所のチャ・ボウン氏が「トランスナショナル市民教育の可能性―日韓の子どもの記憶の対話を通して―」を発表しました。公式的な歴史ではなく個人的な記憶を日韓の子どもが話し合う経験を与える「記憶の対話」を通して、チャ氏は記憶の連帯にもとづくトランスナショナル市民教育の可能性を主張しました。

2本の発表に対して、全国社会科教育学会からは岐阜大学の田中伸氏が、韓国社会教科教育学会からはパク・ナムス氏が指定討論を行いました。両氏ともに2本の発表について全面的に同意するものの、議論を深めていくためにいくつかの論点を提示しました。具体的には、両発表者が育成しようとする市民のイメージをより明確にする必要性、記憶に重きをおいた社会科教育を行う際に生じうる問題点(客観的な歴史認識など)、トランスナショナルとコスモポリタンの関係、ナショナルな観点とトランスナショナル/グローバルな観点が衝突する際の対応などが論点として提示されました。指定討論に対して各発表者は自らの実践にもとづき、国家というバウンダリーを超えていく公共圏をつくることの重要性、そしてその具体的な方略について補足説明を行いました。その後のフロアーとの質疑応答では、日韓の異なる歴史教育の文化が互いを理解することの妨げになっていること、特に日本において敏感な歴史を教えることが難しい状況であること、にもかかわらず現在の緊張関係を理解するためには歴史的に思考する必要があるため、敏感な歴史であっても真摯に向き合う必要があることなどが議論されました。

日韓の緊張関係が高まっている今日だからこそ、今回のような草の根的な交流が重要であることを改めて確認することができた研究交流でした。今後も、全国社会科教育学会と韓国社会教科教育学会は、研究交流をとおして学問的ネットワークを深めていきます。今後の研究交流への会員のみなさのご参加、よろしくお願いいたします。

【計画・運営】

・企画:全国社会科教育学会 日韓交流専門委員会(委員会長) 桑原敏典(岡山大学)

    韓国社会教科教育学会  国際交流学術局(局長)   金鍾成(広島大学)

・司会:桑原敏典(岡山大学)、福田喜彦(兵庫教育大学)

・翻訳:(日本語→韓国語)福田喜彦(兵庫教育大学)、金道煉(広島大学大学院)

    (韓国語→日本語)金鍾成(広島大学)、チャ・ボウン(延世大学教育研究所)

・通訳:金鍾成(広島大学)、金道煉(広島大学大学院)

・質疑応答のファシリテーター:福田喜彦(兵庫教育大学)、片山元裕(東京都豊島区立富士見台小学校)