会長挨拶

全国社会科教育学会は、社会科教育に関する科学的研究を行い、社会科教育学と社会科教育実践に寄与することを目的とする学会です。

社会科教育実践を研究対象とする社会科教育学においては、研究と実践は不可分の関係にあり、相互に往還させるところに研究としての特質があります。

本学会においては、会員として大学の研究者や学校等の実践者が広汎に集い、社会科教育の研究と実践のあり方について活発な議論を展開しています。

近年、社会科教育研究は、研究対象においても、研究方法においても多様化する方向で展開してきています。

学会において多様な理論がぶつかり合い議論が発展していく中で、実践の創造・改善に寄与すると考えられる様々な「シーズ」が発信されることは、学会の本来の役割であり、それ自体が学会の社会的有用性であるということができるでしょう。

一方で、全国社会科教育学会が発信する多様な「シーズ」が、学会の主要なステークホルダーである学校及び社会科教師の「ニーズ」に応えるものになっているのかについては、常に自問自答していかねばなりません。

国策として展開する「令和の日本型学校」を目指す教育改革では、教育DXと連動させながら、多様性と包摂性、個別最適化等を視点とした学習者中心の教育改善やコンピテンシー志向の授業改善が求められており、学校の教育課題は一層高度化・複雑化しています。

他方、学校現場に目をやれば、教員構成において40歳代を中心とするミドルリーダー層の比率が少なくなる一方で、30歳未満の若手・新人層が増加してきている状況がある中、教師からは、恒常的な多忙感と授業の準備や研修等の職能開発に割く時間を十分に取れないことへの悩みの声が発せられていることを承知しています。

各地域で教師たちが支えてきた社会科教育研究会の活動も痩せてきているとの話も聞こえてきます。

こうした学校現場の状況や課題に対して、全国社会科教育学会は何ができるのか、何をすることで社会的有用性を高めていくことができるのか、問い続けていかねばなりません。

このような研究対象・方法の多様化や学校の教育課題の複雑化の中で、学問的・教育実践的課題(問い)に応えていこうとする全国社会科教育学会の活動は、国内外の学会や地域の研究組織と連携・協働して展開していくことが求められます。

全国社会科教育学会と他の教育学関連学会との連携によるシンポジウムの開催や地域の実践的研究を支援する学会プロジェクトの展開などは、有効な手だてになるものと思います。

また、これまで全国社会科教育学会が発展に力を尽くしてきた日韓社会科教育学会研究交流や国際社会科教育学会(International Social Studies Education Research Association/略称ISSA)の活動に引き続き積極的に取り組むとともに、その成果と意義について広く情報発信に努めて参ります。

全国社会科教育学会が取り組んできた活動を、「シーズ」と「ニーズ」のマッチング、社会的有用性の発揮という観点から振り返り、改善を加え、一層充実したものにしていきたいと思います。

会員の皆様のご理解とご支援を心よりお願いいたします。

全国社会科教育学会会長
梅津 正美(鳴門教育大学)